研究内容

遷移金属化合物の物質を「作る」「調べる」「測る」

遷移金属元素を含む化合物は、 電子の持つ電荷、軌道、スピンなどの複数の自由度がからんで 高温超伝導、巨大磁気抵抗、金属絶縁体転移など多彩な物性を示します。 このような電気的・磁気的な物性を新しく開拓すべく、あるいは物理的に理解すべく 物質を自分で「作り」、「調べ」、「測って」研究を進めています。

「作る」(試料合成)

試料を作製します。粉末を擦り混ぜたのち焼結したり(固相反応法)、 溶かした原料を混ぜ合わせたり(溶融法)、 高温の水に溶かして反応させたり(水熱合成法)します。 必要な場合は単結晶試料も作製します。 単結晶試料では試料全体にわたって原子(/分子)が規則正しく並んでいるので 物性を調べる際により多くの情報を得ることができます。 (→これまで作製してきた結晶たち

「調べる」(試料評価)

素性のよく分からない試料で面白そうな物性を見つけても、 それが本当に目的物質由来なのか分からなくなってしまいます。 このような事態を防ぐため、試料がきちんとできているかを調べます。 X線回折実験、元素分析、熱重量分析等を用い 不純物や格子欠陥がどのくらいあるかを評価します。 物性測定の結果を試料評価に用いることも多くあります。

「測る」(物性測定)

作製した試料の物性を測定します。 磁化、比熱、電気抵抗といった巨視的な物性測定を元に面白い物性がないかを調べます。 これらに特異な変化が見られた場合には、その原因を探るために微視的な測定手法として 中性子回折実験や核磁気共鳴法(NMR)の測定も行います。 中性子回折実験では試料に中性子を入射して散乱された中性子のエネルギー、角運動量、散乱方向を観測し、 NMRでは試料の中の原子核が持つ核スピンのエネルギー遷移を観測します。 入射された中性子や試料の中の核スピンは電子のスピンと相互作用しているので、 これらの中性子や核スピンの状態変化を調べることで間接的に物質の電子状態を探ることができます。

研究テーマ

物質は温度や圧力によって様々な相を生じます。 例えば、温度を下げれば気体は液体、固体へと変化します。 同様に、磁性体も温度や圧力によって様々な磁気的な相を示します。 各々の相を支配しているのは、電子の公転の自由度に対応する軌道や、自転の自由度に対応するスピンです。 このうちスピンが物質の磁気的性質を支配する系を「量子スピン系」と言います。 スピン系においては、通常温度を下げるとスピンの向きがバラバラの状態(気体)から規則正しく並んだ状態(固体)に相転移します。 しかし、実際にはまだ私たちの知らない磁気的な量子相が数多く眠っていると期待されます。

私が主に研究対象としているのは、 スピン間の磁気的な相互作用が競合するフラストレート磁性体や、 スピンが一次元・二次元的なネットワークを組む低次元磁性体です。 これらの磁性体においては量子ゆらぎと呼ばれる量子力学的な不確定性が発生することで スピンが規則正しく並んだ固体状態にならず、新しい量子相の発現が期待すると期待されています。 理論的にはスピン液体、スピン液晶(ネマティック相)など様々な量子状態を提案されていますが、 実際に実験的にそれら見い出せた例はほとんどありません。 そこで私はこれらのモデル物質を開発し、実験的な観点から新しい物性を開拓することを目指しています。

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通常スピンは「矢印」と同じように180度回転すると逆を向きますが、 2つのスピンが対を組むと「棒」のように振る舞い180度回転すると元に戻るような自由度(ディレクター)が生じます。 この「棒」の向きがそろった状態はソフトマターの分野における液晶の向きがそろった状態(ネマティック状態)と同じであることから、スピン・ネマティック状態と呼びます。